完全オリジナルの・・・。
2003年5月10日今から約5、6年前に執筆した完全オリジナルの
オトナのお伽話です。
あの日からすっかり忘れ去られ、ハードディスク
の肥やしになっていたのを「だいありー・のー
と」用にリライトしてみました。
まだ、完結していない上に、タイトルすら決まっ
ていません。
更に、人目に触れるのもこれが初めてです。
現在執筆中の作品は、今3人の方が読まれていま
す。
そちらはあまりに大きく長いので「だいありー・
のーと」へリライトの予定はありません。
(1.44Mのフロッピー2枚分でただ今60
ページ以上のボリューム・・・それでもやっと
前半部分が終わるか終わらないかくらい)
取り敢えず、全部は入らないので、分けて掲載
します。
掲載しながら、完結できればイイなと云うのが
スカルの目論見です。
(あまり期待できませんが・・・)
宜しければ、読んでみて下さい。
では、はじまり☆はじまり
***********************
「だから、俺に勝ち目なんて最初からなかったの
さ」
也久が知久の意見に答えたのは、ロックグラスを手
に取り、ウィスキーのダブルを口の中に煽った頃
だった。
薄暗い店内では、オールディーズのジャズがBGM
に流れ、也久と知久のいるカウンターの最奥では、
恋人達が楽しそうに会話を交わしていた。
「めずらしいな?完全主義のおまえが女の事で落ち
込んでるなんて」
知久が也久にそう返したのは、まるで深海のなかで
戯れる魚の様に楽しそうにジャレあう二人から、目
の前のロックグラスのシングルウィスキーに目線が
移った頃だった。
眼前に新しいコースターとウィスキーのダブルが置
かれた頃、也久は自嘲気味に薄笑いを浮かべた。
「知久の言う通りだ…全く俺はどうかしてるよ、た
かだか女一人にこのザマだもんなー」
ウィスキーのシングルを翳しながら、知久は自己嫌
悪に陥っている也久を横目でみていた。
まぁーそう落ち込むなよ、でもむしろおまえには良
い事じゃなかったのか?人並みの恋愛というものが
できて」
也久がロックグラスを両手で弄んでいる頃、知久が
皮肉をいったが、也久はそれを聞いている様子はな
かった。
カウンター奥のバーテンダーが時計回りにゆっくり
とグラスを磨いている。
まるで時間もそれに合わせて流れているかの様に、
ゆったりとしたリズムを刻んでいた。
「恋愛は自由さ、男も女もな…」
知久はカウンターのテーブルを爪でつつきながら、
ボソリとつぶやいた。
「少し冷静になって考えてみろよ、おまえにとって
彼女は大事なヒトだったかも知れないが、彼女に
とっておまえは本当に大事なヒトだったのか?」
知久は身を乗り出し、也久の目に語りかけた。
「阿柚奈…」
也久はそれだけ呟くと、静かに目を閉じた。
「男と女は好きなだけでは一緒にはいられないもの
だぞ…ま、彼女自身が決めた事だ、笑って送りだし
たらどうだ?」
知久は也久の肩を軽く叩きながら言った。
「…おまえの言ってる事は大局的に正しいと思う…
だけど今の俺に必要な言葉はそんな陳腐な台詞じゃ
ない事ぐらいおまえにも分かるだろう?」
也久は少しイラつきながら声を荒げ知久にいう。
知久は動じる風もなく、グラスのウィスキーを飲み
干してみせた。
「…男も女も皆、或る一つの世界においては一つの
結論に到達しようとする。
まあ、入り口に関しては個人差があるにしろ、出口
はそれが例え抽象的なものにしろ場所は同じだ…」
知久はカウンターに置かれたロックグラスに視線を落とし、静かに語り始めた。
「男が女を愛する場合、大体所有欲から来るもの
で、愛と言う感情は後から付け足される場合が多
い。
大体『愛』と言う感情なんて男が女を隷有し女が男
に隷属する事をお互いに正当化する為に使われる一
種の『道具』みいなものさ」
バーテンが代わりに差し出したグラスの琥珀色をし
た液体が静かに揺らぎ始めた頃、知久はグラスを目
の高さまで掲げ、そのまま口に運んだ。
「プレイボーイの名前を欲しいままにしているおま
えの口から、そんな台詞が出てくるとはな…」
也久は苦笑しながら知久の話を受け流した。
「俺は人生を女に捧げてる。皆が俺の事をどう思っ
ているか知らないが、今まで俺が愛した女は全部本
気で惚れた女だ」
知久は少し笑いながら、也久にポツリと呟いた。
「お可笑しい話じゃないか、おまえの手口はどう贔
屓目に見たって、ペテン師だぜ?」
「本気で惚れた相手に手段なんて選んでいられるか
よ!要は意識させること・・・ガキじゃあるまい
し、待ってれば向こうから声をかけてくるなんて
思ってたら、永久にチャンスなんかこねーぞ」
知久は也久相手に妙に力説していたが、也久はその
言葉一つ一つがとても心地よく思えた。
「そう言うおまえだって、阿柚奈を落とすとき俺の
伝授した方法で落としたじゃねーか」
「そうだったか?」
也久は、ロックグラスを両手で摘み上げながら、知
久にとぼけてみせた。
その時に見せた表情はこころなしか暗かった。
「そう言えば、阿柚奈を最初のデートに誘ったのも
ここだっけか…」
也久は苦笑しながら想い出話を始めた。
「あの時のおまえケッサクだったよな…まったく恋
愛映画の見過ぎだぜ…」
知久も一緒に当時の也久の様子を思い出し、笑って
いた。
周りに人気も絶えたバーに一人の女性客が入って来
た。
女は自分の家に入るかの様に、よく知っている足取
りで端のスツールを引き、静かに腰を下ろした。
この時点では也久も知久も、彼女の正体を知る由も
なかった。
女はバーテンにドライマティーニを注文し、その細
く長い足を時折組替えながら、カウンター中央にい
る二人の男性を注視していた。
「お前は気が付かなかったかもしれないが、あの時
の彼女は本当に楽しそうだったんだぜ、あんな笑っ
ている阿柚奈は久しぶりに見たよ」
知久はグラスを手に、しみじみと語っていた。
「…あの時、本当に阿柚奈が好きだったのはおま
えだったんじゃないのか?」
也久の問いに知久は苦笑しながら、ウイスキーを一
口飲むと、諦めたように話し出した。
「あの日な、俺、阿柚奈にプロポーズしたんだ。
アイツがお前と付き合う事が分かっていながらな…
実はな、俺こんな女好きになったきっかけが阿柚奈
だったんだ」
知久の告白に少し戸惑っていたが、也久は別に驚い
てはいなかった。
「ま、お前らしいよな…でも阿柚奈は確かにいい女
だったよな」
也久は目を宙に泳がせながら、述懐するようにポツ
リと呟いた。
「あら、過去形で語られるなんて私としては心外だ
わ…」
二人の背中に先ほどまで、端のスツールに座ってい
た女だった。
「阿柚奈!!」
二人は声を揃えて驚いていた。
「やれやれ、お前も余程欲張りな女だな…俺達はお
前に時間と心を捧げたのに、この上記憶まで欲しい
のか?」
也久は呆れた口調で阿柚奈に話した。
「時間は誰にでも平等に流れてるものよ、あなたが
私に捧げたと思ってる時間は単に共有したに過ぎな
いし、記憶は私の中にもしっかり根付いているら、
これも共有したにすぎない…結果的にあなたから
貰った物はこのバーの隅のスツールと、ここに来
れば貴方に逢える事実だけよ」
阿柚奈は溜息を漏らす様につぶやいた。
知久は隣でウィスキーのロックを一口づつ、確かめ
る様に飲んでいる。
也久は次の言葉を捜す様に、コースターの淵を指で
なぞっている。
「私が今日処々に来たのは、その事実を確かめに来
ただけよ」
阿柚奈は正面を向いたままポツリと述懐した。
つづく・・・
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